中国がしたい事って、その2

FT.com - Chinese companies struggle to find workers

中国沿岸部製造業の労働者不足ニュースはよく流れる。これは、中国大陸内陸部から沿岸部に出稼労働として大量に流れ込んでいた単純労働者が、ものすごい勢いで逆流しているから。

中国の経済成長は、1979年の改革開放政策を境に始まった。暗い社会主義時代に閉ざされていた巨大市場が門を開き始めたことに資本市場は大きく興味を持ち、この新興市場には大量の資金や技術が流れ込んだ。また中国はこれを段階的な開放政策によってコントロールしながら、相互利益がある形で発展を成功させる。中国GDPは年間10%の成長を続け、昨年には日本を抜いた。

ところで、この後はどうなるのだろう。
彼らの勃興シナリオがあるとすれば、こんな感じではなかろうか。

1.沿岸部を使った資本主義的発展の徹底。
上述の通り。多くの国が実行してきた、労働力価格差を利用した模範的な経済発展モデル。中国企業とのジョイントベンチャーが必須のFDIや、香港との加工貿易経済特区などの政府主導の仕掛けで外資を慎重に受け入れ利用する。その外資の1つ、ユニクロが高品質低価格の衣料を製造販売しているのは、このトレンドに完璧に乗ってきたから。更に先を読む柳井社長は、次の理由から低コスト体質を維持するためにバングラデシュなどへ手を伸ばす旨を発表しました。

2.沿岸部を高付加価値産業へシフト、製造業は内陸部へシフトさせる。(いまここ)
国としてある程度の経済力を達成後、更なる経済成長を維持するための産業構造を地理的に転換。1995年から2004年まで、内陸から出稼ぎで、9800万人が移動した。しかし経済成長と共に、出稼労働者の地元に近く、生活コストがまだ低い内陸部でも同程度の収入が得られるようになってくるので、沿岸部から内陸部への労働者逆シフトが起こる。沿岸部では賃上げストライキなどが自然に起こり、政府は2008年に新しい労働法を制定して、最低賃金の底上げや労働環境の改善を行った。余談だが中国は政治は北京、ビジネスは上海が大きく力を持っていて、この労働法を巡っても、政治的な対立が露骨で面白かった。

3.大きすぎる格差を是正し、政情リスクが起きにくい安定した経済基盤を作る。
1つの共同体の中に大きな不公平が存在すると、不満は爆発する。経済的には社会主義が生き絶えた最大の理由であり、中国はよく分かっているはず。現在10倍程度あると言われている内陸と沿岸の格差を、2倍くらいに縮める。西部大開発

4.民主化して強く安定した国家体制にする。
民主主義は理想的な統治の仕組みでは無いかもしれないが、それよりましな物が無い。独裁国家では腐敗が起こり、必ず無理が出る。自由市場と同じく、新陳代謝が起こり、時代に合わせた考え方や体制が常に採用される仕組みでなければ、人間の集まりである以上、維持することが出来ない。なんとか主義やなんとか体制というのは、要は怠惰な人間を働かせるために、人間が自分で考えて自分にぶら下げたニンジン付き釣竿だ。人類はたまたまそういうドMな方法を失敗しながらたくさん思いついたので、生物としての実力以上の進化が出来ている。でなければ素手ではパンダあたりに殺される。

5.欧米ベースの世界にメスを入れる。
そして中国が最後にやりたいのはこれかもしれない。過去の栄光を取り戻し、紫禁城の王座にあぐらを書いて座ることだ。標準時がグリニッジ天文台にあることや、西暦のカウントの仕方、国際機関のメンバー、または今まさに着てる服に、疑問を抱いたことは無いだろうか。最後の仕上げに、この時代そのものにメスを入れようとしているのでは無いかということ。中華の思想やシステムを、世界中に広げること。

大英帝国アメリカ合衆国に代表された200年を通して、これはまだどの国も達成した事がない。日本は政治的にはそれを望まなかった。OPECオイルショックを発動させる交渉力を持つことには成功したが、そこまでだ。中国がしたたかにこれを実行に移している可能性がある動きは、上海協力機構、アフリカ支援、東南アジアとのコミット強化など、いくつか指摘されている。


参考文献:
When China Rules the World (Martin Jacques)
– The rise of the middle kingdom and the end of the western world

授業でも参考文献リストによく出てくる、イギリスの新聞The Guardianのコラムニストの書いた、多分有名な本。中国が何をしようとしているのか分析。とても面白いです。目次はこんな感じ。

INTRODUCTION

  1. . The changing of the guard

THE END OF THE WESTERN WORLD

  1. . The rise of the west
  2. . Japan-modern but hardly western
  3. . China’s ignominy
  4. . Contested modernity

THE AGE OF CHINA

  1. . China as an economic super power
  2. . A civilization-state
  3. . The middle kingdom mentality
  4. . China’s own backyard
  5. . China as a rising global power
  6. . When china rules the world
  7. . Concluding remarks: the eight differences that define china