人口減少なう、な先進国

今日のFinancial Timesに、フランスとドイツが経済成長へのてこ入れをするための、労働改革に手こずっているという記事が続けて出ていたので、ふと日本のことも考えてみました。

不況にあえぐ世界経済、特になかなか成長の見通しが見えない先進国経済ですが、今起こっているのは「サブプライムショックに端を発する一時的な不況」だけではなく、人口動態の変動という、構造的なものが背景にあります。日本の例を考えれば明らかですが、目覚しい医学の発達で高齢人口が爆発的に増加する中、将来に不安を感じる新婚夫婦は子供を何人も産もうとしません。日本の出生率は1.27を若干下回り、国際連合の定める標準的な人口置換水準2.1を大きく下回っています。つまり、出生率が2.1を下回る日本のような国は、人口がどんどん減っていきます。

こういった構造的変化は、国の財政にも重くのしかかります。支出側から見ると、高齢者増による医療介護費、年金負担、また労働力減による生活保護など、例えば2006年の社会保障給付費は年間90兆円にのぼり、当該年度GDPの23.9%を占めます。社会保障費の増加は、政府の政策の幅を狭めます。収入側から見ても、人口減→GDP自然減少→税収減→社会保障費はカット出来ない→国債発行→GDP比債務残高はみるみる悪化(現在200%)→やむなく増税規制緩和もされず競争力が低いままであれば成長率悪化(or デフォルト懸念による円の信頼低下)という悪循環です。

高齢化と少子化のダブルパンチで人口が減少していく先進国の経済を維持するためには、他の要素を一定だと仮定すると、労働力の数を増やすか生産性を上げるしかありません。フランスのサルコジ大統領は、定年退職と年金支給年次の切り上げを行い、ドイツのメルケル首相は移民を増やす政策で切り抜けようとしながら、しかしこういったドラスティックな改革は国民の賛同を得にくく、サルコジは学生のプロテストに手を焼き、メルケルは保守とリベラルの間で揺れていることが報道されています。

日本はどうでしょうか。フランスとドイツの高齢者割合と合計特殊出生率は、それぞれ20.9 (2006年)と1.89 (2008年)、24.8 (2006年)と1.32(2008年)です。これに対して日本は25.6 (2006年)と1.27 (2008年)と、両国を上回っていながら、移民は受け入れず、女性は労働市場で受け入れられず、雇用に流動性をもたらす派遣労働を禁止したり、真逆をやっています。第二次産業革命でも起きない限り、生産性も大きく向上しません。

2006年4月から、改正高齢者雇用安定法という、段階的に定年を60歳から65歳へ引き上げる法律が施行されています。終身雇用を経験した日本の企業戦士サラリーマンは会社や日本社会への忠義が厚く、電通のレポートによれば77%が定年後も働くことを希望しています。フランスが苦労していることを難なくやった訳ですが、社会保障費5年分のインパクトなんて、長期的には微々たるものです。年間90兆円の社会保障費をざっくりと年代別で切って1年代1兆のコストだとすると年間5兆円削減ですが、社会保障費自体が年間2〜3%づつ増加しており、数年で消し飛びます。

日本も、もっと大きなインパクトのある構造変化が必要だと思います。守るものが多すぎたり、ちょっと利権をチラつかせとけば大金が手に入る日本のような国では、もう内側から大きく変わることは出来ないと思っています。外からの自然な圧力によって、国民みんなが本当に冷や汗を感じて初めて、日本人の腹の底からの民主主義が達成される気がします。そういう点で、穏やかにプレッシャーを感じることが出来るのは、僕は超国家的な地域統合の線上にある、移民政策だと思っています。日本には日本人しかいないと思ったら大間違い。山手線に乗る外国人の数がこの10年で増えたことは誰もが感じることでしょうし、六本木は誰かが言っていたように立派な国際都市です。

流出入する労働力、投資資金や事業機会。日本が経済大国として復活できるチャンスがあるとしたら、巨大なアジアを乗りこなすことだと考えて、そんなことを香港大学で勉強しています。


参考
A special report on the world economy: How to grow | The Economist
FT.com / Europe - Sarkozy stands firm against protests
FT.com / Europe - Merkel’s answer: make immigration work
国の合計特殊出生率順リスト - Wikipedia
各論1.社会保障財務省
債務残高の国際比較(対GDP比):財務省
2007 年団塊世代退職市場攻略に向けた調査レポート(電通
厚生労働省:高年齢者雇用安定法の改正のお知らせ